仮面の女医 第1話 帰郷
登場人物
小柳道代:女医、独身 原田泰造:事務局長
小柳鉄也:道代の父親 黒川黒川:精神科医師、心理学が得意
小柳道子:道代の母親 斉藤靖子:看護婦、トメの娘
斉藤トメ:婦長 石井知美:看護婦
第1話 帰郷
「はい、薬をだしておくからね。体を大切にするのよ」
「先生、ありがとうございました」狭い診察室から初老の男性が出ていく。
「先生、今日はこれで終わりです」看護婦が話しかけると「これで終わりね!」ホッとして体を伸ばす道代だ。
「先生、本当にここを辞めるんですか?」
「本当よ。お父さんが年だから後を継ぐの」
「もったいないわ。先生だったら内科医長にもなれるのに…」
「そんなに言わないで、未練が残るわ」道代は診察室から出た。
「今月一杯で終わりか!」呟くように言いながら廊下を歩いてると「小柳先生、聞きましたよ。今月で辞めるんですってね」話しかけたのは同僚の医師だ。
「そうなの。後はあなた達が守ってよ」
「分かりました。でも寂しいですね。名物の美人女医が消えるなんて」
「あら、美人かしら。一度もデートに誘われたことも無かったし…」
「皆が遠慮してたんですよ。断られるのが怖くて」言い訳ををしている同僚だ。
そして、冬の終わりを告げる4月、東京駅新幹線ホームに道代がいた。
「列車が参ります。白線までお下がり下さい」放送が繰り返される。
「これで、お別れね」小さなバッグを手に持ち、立っつと列車がホームに入ってきた。
「キー!」ブレーキが掛かり停止し、それと同時にドアが開いていく。
道代は他の乗客に押されるようにして乗り込んでいく。
「この席ね」バックを網棚に乗せてから座った。
「プルプルプル!」ホームのベルが鳴り、それに合わせてホームから列車が滑るように走っていく。
列車は徐々にスピードが上がって、時速が250キロを越えている。
「お父さんとは久しぶりだわ」期待を膨らませる道代だった。
道代は2時間後、新幹線を降りてタクシーを拾っていた。
「城南町の小柳病院よ。わかる?」
「私は20年やってますよ。この町の事なら知ってますから」
「そう、安心したわ」タクシーは町中を走り、住宅街が並ぶ道を走っていった。
「もうすぐですよ、お客さん!」
(わかってるわよ。そんなこと)正面に病院が見えている。
「そっちじゃないの。左の家よ!」
「あそこは院長さんの自宅ですよ。もしや、お嬢さんの道代さんでは?」
「そうよ、院長の娘よ」
「失礼しました」タクシーが玄関に横付けされた。
「ありがとう。これでいいかしら?」
「はい、結構です」道代は現金でなくタクシー券を渡した。
それは空白になっていて、運転手が好きな数字が書ける。
小柳病院が接待用に業者と契約したタクシー券だ。
タクシーを降りた道代は玄関を開けて家の中に入り「ただいま、道代よ!」その声に奥から足音が聞こえてくる。
「道代!」「母さん、元気?」「私は元気だけど、お父さんがね」力無く応える母親の道子だ。
「私が戻ったからには、安心して」
「そうよね、道代が戻ったから安心だわ」二人が奥に入ると「道代か!」布団に横になっていた老人が起きあがっった。
「お父さん、ただいま。戻ってきました」
「そうか、戻ってきたか」涙ぐむ父親の鉄也で、道代は久しぶりに両親と話しあった。
翌朝、道代は白衣を着込んでいた。
「お母さん、行って来るわね」
「頼んだよ、道代!」笑顔の道代を心配そうに見送る道子だ。
「おはようございます!」元気よく挨拶したが「あんた、だあれ?」看護婦が聞き返してくる。
「小柳道代です。ここの医師で勤務する事になりました」
「あ、あー。院長の娘さんなの?」
「はい、内科医です。外科免許も持ってますが、得意は内科です」その言葉に看護婦達が集まってきた。
「新しい先生ですか。美人なんですね」
「綺麗だわ、うらやましい。オッパイはCですか、Dですか?」
「彼氏、いますか?」質問が矢のように飛んできた。
「ハイ。そこまでよ。仕事があるでしょう」その言葉にクモの巣を散らすように散っていく。
「お嬢さん、私わかる?」中年の看護婦が話し掛けてくる。
「知ってるわよ、トメさんでしょう?」
「そうよ、トメよ」
「懐かしいわ。トメさん!」
「それよりも仕事よ、お嬢さん」道代はトメの案内で病院を回り、内科医として働いていた。
患者も最初は戸惑っていた。
「はい、おばあちゃん。しっかり休むのよ。無理しちゃだめだからね」
「わかったわ。お嬢さん!」鉄也の娘と知ると、患者の皆が素直に言うことを聞いた。
病院の看護婦や医師達は道代を暖か迎えたが、温かい目で全てが見てはいない。
「やりにくくなったな…」
「そうですよ。計画を練り直さないとだめですね」二人は小さな声でヒソヒソと話し合っていた。
「あの、惚けた親父に、娘へ悪さをさせれば、なんとかなるでしょうね」
「できるかな。そんなこと?」
「幻覚剤と催眠を掛ければ、やるかも知れませんよ」
「そうだな、君の専門だよな。それに、失敗しても証拠が残らないしな」二人は笑い出した。
そんな企みがあるとは知らない道代は、初日に診療を無事に終えていた。
「先生、コーヒーをどうぞ」
「ありがとう」
「先生、恋人いるんでしょう?」
「それがいないのよ」
「嘘でしょう。その体のスタイルと顔でしょう、男が放っておかないはずよ!」
「本当にいないの。いい人いたら紹介してよ」看護婦と世間話をしていた。
そこへ当然「先生、急患です。救急車で運ばれてきます。外科の先生が急用で帰り、先生しかいません!」婦長のトメが道代に告げる。
「わかった。私は外科もできるし、やるわ!」再び気合いを入れる道代だ。
遠くから「ピイーポー、ピイーポー!」と救急車の音が聞こえてくる。
「いくわよ!」看護婦達と救急用窓口に向かった。
窓口で暫く待つと、赤色灯を点滅させた救急車が入って、隊員が手際よく、ストレッチャーを下ろした。
「CT室よ、脈と呼吸がしっかりしてる。脳が心配だわ」道代は赤らんだ顔に気がかりだった。
青ざめた顔なら脳の心配はないが、赤いと言う事は、脳内出血の恐れがあるからだ。
患者を看護婦がCT室に運んでいく。
「頭がこっちよ!」指示していく道代だ。
そして、爆射音がして脳のCT画像がモニターに出た。
「内出血よ。右側頭部が出血している。手術の用意!」看護婦に指示した。
「家族の方はいないの?」救急隊員に尋ねると「こちらです!」若い男性が呼ばれた。
「脳内出血です、急がないとだめなの。手術に同意して欲しいの」
「はい。同意します。かならず、お母さんを助けて下さい」若い男性は体を震わせている。
「任せて、必ず助けるから!」男性は看護婦に連れられて行く。
「準備できました。血液も用意できました。それに、センターにも非常用を待機させてます!」
「よし、やるわよ。オペ開始!」
道代は無影灯が煌々と照らされた手術室で叫んだ。
「メス!」看護婦が手渡し、メスは剃毛された頭を切っていく。
血が吹き出し、手術服を真っ赤な血が汚していく。
「かなり出血してる。脈と呼吸は?」
「脈は55、呼吸は15です。正常です」メスは更に切っていく。
(ここだわ、血管が切れてる!)道代は「鉗子!」血管を押さえ、接合していく。
(凄い腕前だわ。外科医長よりも勝っているかも…)看護婦達はそんな目で見ている。
血管が繋がった。
「脳の血が引いていきます」(終わった!)切った皮膚を縫いでいく。
「オペ終了!」道代の服には血がべっとりと着いている。
患者は頭に包帯が巻かれて病室に運ばれて行く。
「先生、見直したわ。凄い腕前の上、美人なんだもん!」若い看護婦が話しかけてきた。
「ありがとう。褒めてくれて!」看護婦達を尻目に道代は親の待つ自宅に向かった。
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小柳道代:女医、独身 原田泰造:事務局長
小柳鉄也:道代の父親 黒川黒川:精神科医師、心理学が得意
小柳道子:道代の母親 斉藤靖子:看護婦、トメの娘
斉藤トメ:婦長 石井知美:看護婦
第1話 帰郷
「はい、薬をだしておくからね。体を大切にするのよ」
「先生、ありがとうございました」狭い診察室から初老の男性が出ていく。
「先生、今日はこれで終わりです」看護婦が話しかけると「これで終わりね!」ホッとして体を伸ばす道代だ。
「先生、本当にここを辞めるんですか?」
「本当よ。お父さんが年だから後を継ぐの」
「もったいないわ。先生だったら内科医長にもなれるのに…」
「そんなに言わないで、未練が残るわ」道代は診察室から出た。
「今月一杯で終わりか!」呟くように言いながら廊下を歩いてると「小柳先生、聞きましたよ。今月で辞めるんですってね」話しかけたのは同僚の医師だ。
「そうなの。後はあなた達が守ってよ」
「分かりました。でも寂しいですね。名物の美人女医が消えるなんて」
「あら、美人かしら。一度もデートに誘われたことも無かったし…」
「皆が遠慮してたんですよ。断られるのが怖くて」言い訳ををしている同僚だ。
そして、冬の終わりを告げる4月、東京駅新幹線ホームに道代がいた。
「列車が参ります。白線までお下がり下さい」放送が繰り返される。
「これで、お別れね」小さなバッグを手に持ち、立っつと列車がホームに入ってきた。
「キー!」ブレーキが掛かり停止し、それと同時にドアが開いていく。
道代は他の乗客に押されるようにして乗り込んでいく。
「この席ね」バックを網棚に乗せてから座った。
「プルプルプル!」ホームのベルが鳴り、それに合わせてホームから列車が滑るように走っていく。
列車は徐々にスピードが上がって、時速が250キロを越えている。
「お父さんとは久しぶりだわ」期待を膨らませる道代だった。
道代は2時間後、新幹線を降りてタクシーを拾っていた。
「城南町の小柳病院よ。わかる?」
「私は20年やってますよ。この町の事なら知ってますから」
「そう、安心したわ」タクシーは町中を走り、住宅街が並ぶ道を走っていった。
「もうすぐですよ、お客さん!」
(わかってるわよ。そんなこと)正面に病院が見えている。
「そっちじゃないの。左の家よ!」
「あそこは院長さんの自宅ですよ。もしや、お嬢さんの道代さんでは?」
「そうよ、院長の娘よ」
「失礼しました」タクシーが玄関に横付けされた。
「ありがとう。これでいいかしら?」
「はい、結構です」道代は現金でなくタクシー券を渡した。
それは空白になっていて、運転手が好きな数字が書ける。
小柳病院が接待用に業者と契約したタクシー券だ。
タクシーを降りた道代は玄関を開けて家の中に入り「ただいま、道代よ!」その声に奥から足音が聞こえてくる。
「道代!」「母さん、元気?」「私は元気だけど、お父さんがね」力無く応える母親の道子だ。
「私が戻ったからには、安心して」
「そうよね、道代が戻ったから安心だわ」二人が奥に入ると「道代か!」布団に横になっていた老人が起きあがっった。
「お父さん、ただいま。戻ってきました」
「そうか、戻ってきたか」涙ぐむ父親の鉄也で、道代は久しぶりに両親と話しあった。
翌朝、道代は白衣を着込んでいた。
「お母さん、行って来るわね」
「頼んだよ、道代!」笑顔の道代を心配そうに見送る道子だ。
「おはようございます!」元気よく挨拶したが「あんた、だあれ?」看護婦が聞き返してくる。
「小柳道代です。ここの医師で勤務する事になりました」
「あ、あー。院長の娘さんなの?」
「はい、内科医です。外科免許も持ってますが、得意は内科です」その言葉に看護婦達が集まってきた。
「新しい先生ですか。美人なんですね」
「綺麗だわ、うらやましい。オッパイはCですか、Dですか?」
「彼氏、いますか?」質問が矢のように飛んできた。
「ハイ。そこまでよ。仕事があるでしょう」その言葉にクモの巣を散らすように散っていく。
「お嬢さん、私わかる?」中年の看護婦が話し掛けてくる。
「知ってるわよ、トメさんでしょう?」
「そうよ、トメよ」
「懐かしいわ。トメさん!」
「それよりも仕事よ、お嬢さん」道代はトメの案内で病院を回り、内科医として働いていた。
患者も最初は戸惑っていた。
「はい、おばあちゃん。しっかり休むのよ。無理しちゃだめだからね」
「わかったわ。お嬢さん!」鉄也の娘と知ると、患者の皆が素直に言うことを聞いた。
病院の看護婦や医師達は道代を暖か迎えたが、温かい目で全てが見てはいない。
「やりにくくなったな…」
「そうですよ。計画を練り直さないとだめですね」二人は小さな声でヒソヒソと話し合っていた。
「あの、惚けた親父に、娘へ悪さをさせれば、なんとかなるでしょうね」
「できるかな。そんなこと?」
「幻覚剤と催眠を掛ければ、やるかも知れませんよ」
「そうだな、君の専門だよな。それに、失敗しても証拠が残らないしな」二人は笑い出した。
そんな企みがあるとは知らない道代は、初日に診療を無事に終えていた。
「先生、コーヒーをどうぞ」
「ありがとう」
「先生、恋人いるんでしょう?」
「それがいないのよ」
「嘘でしょう。その体のスタイルと顔でしょう、男が放っておかないはずよ!」
「本当にいないの。いい人いたら紹介してよ」看護婦と世間話をしていた。
そこへ当然「先生、急患です。救急車で運ばれてきます。外科の先生が急用で帰り、先生しかいません!」婦長のトメが道代に告げる。
「わかった。私は外科もできるし、やるわ!」再び気合いを入れる道代だ。
遠くから「ピイーポー、ピイーポー!」と救急車の音が聞こえてくる。
「いくわよ!」看護婦達と救急用窓口に向かった。
窓口で暫く待つと、赤色灯を点滅させた救急車が入って、隊員が手際よく、ストレッチャーを下ろした。
「CT室よ、脈と呼吸がしっかりしてる。脳が心配だわ」道代は赤らんだ顔に気がかりだった。
青ざめた顔なら脳の心配はないが、赤いと言う事は、脳内出血の恐れがあるからだ。
患者を看護婦がCT室に運んでいく。
「頭がこっちよ!」指示していく道代だ。
そして、爆射音がして脳のCT画像がモニターに出た。
「内出血よ。右側頭部が出血している。手術の用意!」看護婦に指示した。
「家族の方はいないの?」救急隊員に尋ねると「こちらです!」若い男性が呼ばれた。
「脳内出血です、急がないとだめなの。手術に同意して欲しいの」
「はい。同意します。かならず、お母さんを助けて下さい」若い男性は体を震わせている。
「任せて、必ず助けるから!」男性は看護婦に連れられて行く。
「準備できました。血液も用意できました。それに、センターにも非常用を待機させてます!」
「よし、やるわよ。オペ開始!」
道代は無影灯が煌々と照らされた手術室で叫んだ。
「メス!」看護婦が手渡し、メスは剃毛された頭を切っていく。
血が吹き出し、手術服を真っ赤な血が汚していく。
「かなり出血してる。脈と呼吸は?」
「脈は55、呼吸は15です。正常です」メスは更に切っていく。
(ここだわ、血管が切れてる!)道代は「鉗子!」血管を押さえ、接合していく。
(凄い腕前だわ。外科医長よりも勝っているかも…)看護婦達はそんな目で見ている。
血管が繋がった。
「脳の血が引いていきます」(終わった!)切った皮膚を縫いでいく。
「オペ終了!」道代の服には血がべっとりと着いている。
患者は頭に包帯が巻かれて病室に運ばれて行く。
「先生、見直したわ。凄い腕前の上、美人なんだもん!」若い看護婦が話しかけてきた。
「ありがとう。褒めてくれて!」看護婦達を尻目に道代は親の待つ自宅に向かった。

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